コラム

「言えばわかる」と「言わなくてもわかる」のすれ違い

「何も言ってくれない」と「あれだけやってるのに」は、同じ関係の中で同時に起きます。量の問題ではなく、渡し方が違うだけのことがあります。

「あの人は何も言ってくれない」

「あれだけやってるのに、伝わってない」

この2つが、同じ関係の中で同時に成立していることがあります。どちらも本音で、どちらも嘘ではない。片方が冷たいわけでも、片方が鈍いわけでもありません。

渡し方には、大きく2つある

誰かを大事に思っていることを表に出すとき、その表れ方は人によってかなり違います。乱暴に分けると2種類です。

  • 言葉で渡す。声をかける、気持ちを伝える、話を聞く、意見を返す
  • 行動と時間で渡す。都合をつける、手を動かす、黙ってそばにいる、必要なものを用意しておく

どちらが上ということはありません。ただ、使っている通貨が違うとは言えます。

なぜすれ違うのか

理由はわりとはっきりしています。人は、自分が受け取りたい形で渡すからです。

言われて嬉しい人は、言葉を渡します。してもらって嬉しい人は、行動で渡します。自分にとって「これが嬉しい」と分かっている形を、そのまま相手に向ける。悪気はまったくありません。

その結果、渡し方が違う二人のあいだでは、お互いが全力で渡しているのに、お互い受け取れていないという状態ができます。片方は言葉を待ち、もう片方は気づかれない行動を積み続ける。

行動で渡す側は、記録が残らない

この非対称には、もうひとつ厄介な性質があります。

言われた一言は、記憶に残ります。何年経っても思い出せる。一方、してもらったことは日常に溶けます。やってもらった瞬間は助かったと思っても、それは風景になって、あとから数え上げることができません。

だから関係を振り返ったとき、言葉のほうが目立ちます。実際の量とは関係なく、記憶の中では言葉が優位に立つ。行動で渡してきた人が「自分は何もしてあげられていない」と思っているケースは、かなり多いはずです。実際には、いちばん重いものを渡していることが少なくありません。

相手がどちらかを見分ける

難しくありません。2つ試せば、だいたい分かります。

  • その人にしてもらったことで、真っ先に思い出すのは何か。「言われた一言」が出てくるか、「してくれたこと」が出てくるか
  • その人が自分に対してやっている渡し方を見る。人は自分が受け取りたい形で渡すので、相手の渡し方は、そのまま相手が受け取りたい形であることが多いです

2つめは応用が利きます。マメに連絡をくれる人には、連絡を返すのがいちばん効く。何も言わずに動いてくれる人には、こちらも何かをするほうが届く。

それでも、翻訳は必要になる

相手の形に合わせて渡す、というのがひとつの答えです。ただし全部それをやるのは疲れるので、もう一方向の翻訳も覚えておくと楽になります。

受け取る側が読み替えることです。

「何も言わない」を「何も思っていない」と読まない。「言葉ばかりで動かない」を「口だけ」と読まない。どちらも、自分の通貨で相手を採点している状態です。

相手が使っている通貨のほうを見て数え直すと、たいてい思っていたより渡されています。

言葉には、ひとつだけ強みがある

公平を期すために書いておくと、言葉には行動にない利点があります。受け取ったことが、はっきり分かる。

行動は取りこぼされることがありますが、言われた言葉は取りこぼしにくい。だから、行動で渡すのが得意な人が言葉を1つ足すと、効き方が跳ね上がります。逆も同じで、言葉が多い人が1回だけ体を動かすと、その1回がやたら重く残ります。

普段と違う通貨を1回だけ混ぜる。それがいちばん安くて、いちばん効く方法だと思います。

言葉にするのが難しい相手なら、添える一言の作り方のほうも参考になるかもしれません。

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